SPITZ JAMBOREE TOUR 2019-2020 “MIKKE” @福岡マリンメッセ 2019.12.28 ①

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 僕は不思議な万華鏡を持っている。

 
 地元の街の花火大会で
 露店のおじさんから
 クジ引きの「あたり」と言って
 もらったものだった。

 あれ以来
 あの露店を見たことがないけれど
 あのおじさんどうしているかな。



 万華鏡に射しこむ
 キラキラする光を見るのが
 好きだった。

 光の方向に向けて
 万華鏡を覗くと
 いろんな色や形が変わっていく
 そのひとつひとつを
 飽きもせずに眺めるのが
 
 僕のたまの息抜きだった。



 あるとき
 様々に形を織りなすその隙間に

 ちらりと
 女の子の姿が見えた。


 僕はびっくりして
 万華鏡の奥を覗き込んだ。



 見間違いではなかった。



 万華鏡の奥に映し出されるように
 女の子がいて
 何やら一生懸命に書いている。

 よく見ると、それは誰かにあてた
 手紙のようだった。

 さらに覗き込もうとしたら。

 緑色のセロファン
 黄色い星の形をしたプラスチックの星が
 重なって
 
 女の子を隠してしまった。



 その日
 それから何度も万華鏡をくるくると
 回してみたけれども
 女の子の姿を見ることはできなかった。




 数日後、僕は
 ひそかな期待を胸に
 万華鏡を覗き込んだ。

 すると
 再び女の子の姿が現れた。

 僕は嬉しくなった。

 どきどきしながら
 慎重に女の子を覗き込む。

 今日は女の子は
 植木鉢を見ているらしかった。
 その植木鉢には、ちいさな緑色の芽が。

 女の子は嬉しそうにしていた。

 僕もなんだか
 嬉しくなった。

 その日はそこまでだった。


 それから僕は
 度々、万華鏡を覗き込むようになった。
 

 どうやら女の子の姿を見ることができる日には
 少し傾向があって

 お天気のよい晴れた日の
 光の方向に万華鏡を向けるとよいようだ。

 僕は女の子を見かけるたびに
 日記をつけるようになった。


      *


〇月△日

 空を見ながら散歩していた。
 公園でブランコに乗っていた。
 ブランコとか乗ってないなぁ。

      *



◇月~日
 風邪を引いて寝込む。
 睡眠不足が原因だと思う。
 ちゃんと寝ないとだめだと思う。

  

      *


●月×日

 音楽を聴いていた。
 好きなアーティストがいるらしい。
 誰だろう?


      *

△月?日

 ここしばらく
 彼女の姿が見えない。
 どうしたんだろう。


      *

$月■日

 どうやら彼女はいじめられているらしい。
 何も言わないが
 ここのところ顔つきが暗い。

 
      *
□月@日

 久しぶりに笑顔を見てほっとする。
 お菓子が好きなんだね。


      * 

◎月↑日
 花が咲く!
 とてもきれいだ。
 彼女もとてもうれしそうだ。


      *

▼月#日
 彼女が泣いていた。

 僕は黙って見ていることしかできなかった。


      *

*月%日

 ライブに行った彼女は
 とても幸せそうだった。

 とても…

 

ここまで書いて
ぼくは、あくびして
万華鏡を部屋の隅に放り投げた。


     *



しばらく月日が経った。


僕は久しぶりに
万華鏡を手に取った。

しかし彼女の姿を見ることはできなかった。


数日経って

久しぶりに彼女の姿が現れた。


彼女は
少し変わったように感じられた。


それから
彼女の現れる頻度は
少なくなっていった。


お日様の日に見えなくて

雨の日に見えることもあった。


彼女は
淋しそうだった。

以前のように
笑わなくなった。


      *


ある日を境に
彼女は

全く姿を見せなくなった。


      *



僕はだんだん気持ちが沈んできた。

もう
彼女の姿を見ることは
できないのだろうか。


万華鏡をくれたおじさんの露店を
探してみたりもしたけれど

おじさんの姿も
あの日以来
誰も見ていないようだ。


そんなときに

ふと
ある噂を聞いた。

不思議な双眼鏡の話だ。


女の子の姿が映る
不思議な双眼鏡だという。


僕は
知り合いのそのまた知り合いのつてを頼って

なんとかその双眼鏡を手に入れた。



この双眼鏡は
たくさんのコピーがあって

比較的誰でも手に入るらしい。



僕は部屋に帰って
おそるおそる
双眼鏡を覗き込んだ。


そこに
あの女の子がいた。

断片的にではあるが
万華鏡とは比べ物にならないほど
はっきりと
その姿を映し出している。


そう

断片的ではあるが
ずっと
である。

四六時中
どんな場所でも
どんな状況でも

双眼鏡は
彼女を映し続けた。


もちろん
見てはいけない彼女の姿まで
双眼鏡は
映し続けた。

彼女は

怒ったり
罵倒したりして
最終的には
疲れ切っていた。


僕は少し見ただけで
具合が悪くなった。




見るんじゃなかった。


そう思った。


その双眼鏡を目から
外そうとした

その瞬間

彼女の目が

僕を見た。


たしかに
レンズの向こうの彼女の目が

僕を見たのだ。


一瞬だけ。



彼女の目は
怒りと
悲しみに
満ちていた。

涙が
浮かんでいた。


僕が
前に見た

彼女の涙とは
違って。




        *
  

僕は力なく
双眼鏡を
床に落とし

しばらくは
座り込んでいた。


双眼鏡を
叩き壊し
袋に入れて縛って

クローゼットの
奥に投げ込んだ。


そして


万華鏡を

机の奥深くにしまい込んだ。


その夜、


僕は一人で
日記を書いた。

彼女との日々を書いた
あの日記だ。


そこに
今日見た
彼女の姿を書いたわけではない。


僕は
そこに

“僕の続き”を書いたのだ。



       *






あれから
どれくらい経っただろう。


風の便りと
偶然のきっかけで

僕は彼女を見かけた。


万華鏡ではなくて
現実世界で。


その日に
僕は部屋に帰って
久しぶりに万華鏡を覗いた。


果たして
そこに彼女の姿が
映っていた。


彼女は

当たり前のように
口ずさんだ

僕が書いた

その言葉を。


彼女の目が
僕を見た。


そして

しばらくして

彼女は

本当に

僕の目の前に
現れたのである。


突然に。



****************************





2019年 12月 28日


今日は、スピッツのライブの日だ。

前回参加したのは
ファンクラブイベントの2018年のGo!Scaで

それ以来だから
1年ぶりではある。

それまでに
いろんなことがあったし、

前回のライブのことで
つい最近も
ブログで余計なことを
書いてしまった。


自己嫌悪に陥りつつも
いや、あれはあれでよかったんだ

ちゃんと素直に思ってることを
書くべきだったし

と自分で自分に言い聞かせていた。

でも、
心の中では
いろんな不安が渦巻いていた。


だいたいは
自分の気持ちに余裕がないことが
原因なんだけれども。

それで、
結局いつものように
準備をするのが遅れて
会場に着いたのは
16:00を過ぎていた。


もうグッズもほとんど
売り切れていて

でも、
お目当てのガチャはできたので
自分なりに満足する。

私が引き当てたのは

脇腹に傷のあるハニーちゃんと
北海道出身らしい(?)キツネのギター弾きだった。

手元のフライヤーで見ると
予想通り「花と虫」と「優しいあの子」を
モチーフにしたものらしい。

そのふたつが
とても愛らしく感じた。


よし!
なんとなく幸先いいぞ

平常心を取り戻し

開場の列に加わる。

空は
朝の青空とうってかわって
曇り空が広がっている。

鳥が飛んでいて
写真を写したけれども

後から見たら
その鳥の姿は
あとかたもなく消えていた。


やれやれ
と思いつつ

開場後に入口で発券したら

アリーナではあるが
かなり後方であることが判明する。


溜息をひとつついて

でも、
今日は楽しんで帰ろうと
決めたので

その想いを胸に
席に着く。


ライブが始まる5分前まで

アルバムの『見っけ』を聴いていた。


目を閉じて
深呼吸を一つ。



いつも思うことを
今日も思った。



マサムネさんは

なんであんなに

やさしいんだろう???



ライブ開始5分前になった。


イヤホンを外し、

着ていたコートを
バックと一緒に
前の人の座席の下に置いて
最終準備を整える。


拍手が
少し聞こえた。

前触れもなく
もうステージに
メンバーが登場したらしい。

私も
立ち上がった。


あたりが一瞬暗くなる。


お客さんの拍手と歓声。

いよいよライブが
始まった。



        *     *     *





1曲目は
予想通り「見っけ」。


キラキラした音が
会場いっぱいに広がる。


初めてスピッツライブに来たときのことを
思い出す。

あれもマリンメッセだった。



おもちゃ箱から
光が飛び出し、

たくさんの素敵な何かが始まる
予感のようなオープニング。


少し前のことなのに
遠い記憶のように感じた。

あれからも
いろいろなことが
あったなぁ。

でも
まさしく
同じ場所で

私たちは“再会”した。


“再会へ 消えそうな道をたどりたい”

マサムネさんの歌声が
久しぶりに

私の体に入ってくる。

ああ
と思った。


来てよかった

って
もう、そのとき
思ってしまった。


くるくるまわるような
メロディーの繰り返し。

脳内の記憶も
シャッフルして

“全然違う私たち”の記憶も
思い出しそうだ。


全部かき混ぜて
今の自分を
全部捨てて
きれいになる。


そうやって
スピッツの紡ぐ
音の物語の世界へ
私たちは
招き入れられたのである。

2曲目は
「はぐれ狼」。


美しい悪魔には会えなかったのか

早々と登場のこの曲。

それとも
“待ち合わせ”の意味かな?

とか
勘ぐりながら曲を聴く。

疾走感があって

体が動く。

まるで
自分が狼になったか

狼の背中に乗せられて
走っているかのような曲。


ギターの音色がかっこよくて

音に合わせて
体が
ぐにゃりと

変形しそうだ。


荒野を走る
クールな狼だった。

銀色の毛を
風になびかせている。


今日の会場のお客さんは
少し落ちついた感じで

静かに聴いている。


客席のはぐれ狼は
一人自分だけで浸って
音の世界に入り込みました。(笑


狼は1匹ではなかった。

あと
3匹いて

一緒に
荒野を疾走していた。


スピードを緩めずに
3曲目。


前奏で
何の曲かわからずに
あとから調べたら
エスカルゴ」
という曲だった。

「だめだな ゴミだな」

とかいう言葉で
なんで心がとろけるのよ?

と狼に
内心尋ねながらも

狼たちの疾走は
止まらない。

たくさんの
いらないものを
投げ捨てていくような

爽快な気持ち。



「ハニー 君に届きたい
 もう少しで 道からそれてく

 何も迷わない 追いかける
 ざらざらの世界へ」


「ハニー 君をジャマしたい
 ごめんなさい
 遅かれ 早かれ

 すべて解るはず 正直な
 ざらざらの世界へ」

狼は答えず

マサムネさんは
そう歌う。



狼たちは
私を
連れ去っていった。




ギターのギュンギュンする
音と

跳ねるようなリズムで

荒野を
飛び跳ねて行く。


何がなんだか
そのときは
わからなかったけれども

ただただ
気持ちがよかった。



4曲目

「けもの道」。
大好きな曲だ。


今日は

“博多の日の出”すごいきれいだな
と歌ってくれた。

壮大な歌。


狼たちの
連れてきてくれた
先に

大空が広がっていた
みたいな感じ。

壮大だけど
自分たちがいかに小さいかも
わかる歌だ。


大きな地球と

狼4匹と私

みたいな。

本当は
もっとたくさんの人が
いるんだけど

でも
気持ち的には
そんな感じ。

そして
これは
始まりの歌でもあった。

これから
いろんなことが
始まるんだよ

っていう。

そして
そこに
私も一緒に
連れて行ってもらえている。

そのことが
とてもうれしかったです。


テツヤさんの
弾くギターの美しい音色が

沈んでいく
夕陽のようにも

そのあとの夜空に
輝き始める星の光のようにも

感じられた。


マサムネさんの合図で

再び走り始める
狼たち。

どこまでも

どこまでも。


そんな風景が
浮かんだ。


5曲目。

「小さな生き物」

場面が転換したように
空気が切り替わる。




 負けないよ 

 僕は生き物で 

 守りたい生き物を
 
 抱きしめて 

 ぬくもりを分けた 

 小さな星のすみっこ


マサムネさんの歌声が
響き渡る。


その歌声は
会場全体に広がっていった。

後を追うように
音楽がそれを包み込み


会場の空気が
マサムネさんの歌声で
染まった。

誰にも
どんな人の心にも
それは
まっすぐに
届いたと思う。

私は
そのまっすぐさに

心を
打たれて
しばし
立ち尽くした。

何度も
何度も
聴いた曲なのに。


その
揺るがなさに
改めて
驚いていた。

そして
そのマサムネさんの
歌声を自分の
心にゆっくりと
沁みわたらせた。


やさしい想いが
私いっぱいに
広がる。

開場前に
不安になった気持ちとか

どこかに
吹き飛んでしまった。

だから
それからは
一緒に心の中で歌った。


マサムネさんに
負けないくらいの
想いを込めて。

たぶん
ライブでは
初めて
聴いたと思う。


こんな素敵な形で
この曲を聴くことができて
本当に
よかったと思う。

音楽は
最後まで

やさしく会場を
包んでいた。


(→この曲のあとに1回目のMC。
  6曲目以降は②に続きます。)
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2020年01月14日非公開。
2020年01月18日再公開。
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