Case1 思い出

それは
惰性ともいうべき作業だった。


例えば、それは
体育祭の練習の
マイクセッティング・撤収のあと

体育教師の唾だらけとなったマイクを
じゃんけんで負けた人が
雑巾で拭くような
(その後〇〇菌鬼ごっこが始まる)

そんな
ネガティブな要素はないにしても、

やっても
やらなくても
一緒

みたいな作業のひとつであることは
確かだった。



この中学校では
お昼の時間に一曲だけ音楽を流すことに
なっていて

やたらと校則の厳しい風紀の影響だろうか

それは


“クラシック等の
 差しさわりのない音楽”


決められていた。


そのクラッシック音楽1曲について
それぞれの個性を発揮して
選曲するまでの熱意を

我々は
持っていなかった。



週一回のローテーションとなる
当番のその日も

放送室のクラッシク曲の棚から
無造作に一曲選んで

それを流しつつ
お弁当を食べていた。

その
ゆるやかなお昼の雰囲気を
打ち破ったのは

一人の男子学生であった。


バンっ!!!!


放送室のドアが
勢いよく開いて

その男子学生は入ってきた。


まず

その音にびっくりしたあと、

ドアの方を見て

男子学生の姿を確認する。


とりあえず
不審者が学生であり

ヤンキーでもないことに
ほっとするが

その尋常ならざる雰囲気に
固唾を呑みながら

事態が展開するのを待った。


その男子学生は言った。


「これ流せ」


近づいて見ると、

手には

JITTERIN'JINNのCDが。





何なんだろう、この人は。

ヤンキーでもなさそうだし、

ていうか
ヤンキーの人に
パシらされてるのか?

ということは
バックにヤンキーがいるのか?

それとも

めちゃくちゃJITTERIN'JINNのファンの
人なのか?


毎日の放送が
気に入らなくて

とりあえずJITTERIN'JINNのCDを
流せと言っているだけなのか?


そうじゃなくて
単にものすごいヤバい人なのか?

等々

頭の中に
とりとめなく湧き上がる疑問符を
とりあえず打ち消して

「あー、一応こういうの
 流しちゃいけないことになってるんですよ。」

と無難に言ってみる。



すると

その男子学生は

「いいけん 流せ!!!!」
(いいから 流せ、の意)


さらに感情を高ぶらせて
叫ぶ。


あー、結構ヤバい人だ。


でも、
ここまで言われたら

もう流してもいいんじゃないだろうか。

正当防衛みたいなやつだから

たぶん私達が怒られることは
ないだろう。



素早く判断し
CDをデッキに入れる。

放送室内に
音声が
流れ始めると


その男子学生は

「もっと大きく!!!!!!!!」

と、

朝礼前のマイクテストのときの
生活指導の教師並みの
強硬な態度で
ボリュームコントロールの指示を
出してきたので、

いや、
これ
放送室内確認用の音声だから
外は結構なボリュームで
流れてますよ

と内心思いながらも

音量をMAXにする。



ちなみに
外では流れないように
外部の音声だけ切って
放送室内だけ音声が流れているように
見せかけることもできたけれども、

それだと
誰も助けに来ない気がしたので
そのまま外にも
流すことにしたのだ。


その音をすぐさま
聞きつけて

顧問の先生が
二人
放送室に
飛び込んできた。


その男子学生は
何も言わず

先生達に
連れられ
去っていった。


その背中には

何かをやり終えた

男の姿があった。。。。



こうして

全校に
いきなり
JITTERIN'JINNが
フルボリュームで流される
という稀に見る事件は

あっけなく終わった。


これが

数々の事件のうちにも
名だたる事件のうちのひとつ、

JITTERIN'JINN事件

である。



そして、

その男子学生が
去っていったあと

残された
私の心に残ったのは


。。。。。。

。。。。。。

なんか

超おもしろかった。(笑)


傍目には
いきなり現れたやばい感じの先輩に
脅されて

仕方なく音楽を流しました風に装っていた
他の子達も

なんとなく
楽しかったらしい。




その後、

やっぱり
お昼の時間は
なんか別のも流したほうが
いいんじゃないですかね?

あんまり
クラッシックだけ
とかだと
みんなも飽きて
逆にイライラしたりするのかも?


などと

顧問の先生を
うまく丸め込み

自分達で
何か決めて
その時間に流すことに
なった。

やはり歌モノは禁止であったため
それ以外の何か

ということだった。



先生は
知らなかった。


そのとき
私達の間で

グリム童話
いかに
常軌を逸して
表現できるか

ということが
流行っていたことを。



リアリズムに徹し

ハエがスープに落ちる様子を
生々しく表現した

「ハエとスープ」の話が

お昼の時間に放送され

全校生徒から大ブーイングが巻き起こる
という

ハエとスープ事件

が起きるのは

この

もう少しあとのことである。。。。。


****************




夏が苦手だった。



怒らせると

黙って無口になるのが

癖だった。


ぼくは

彼女の内臓を

慎重に
ひとつずつ

丁寧に取り出しながら

彼女は

そんなぼくを

どきどきしたような
不安げな面持ちで

みつめていた。


手を引いて

新しい景色を見せると

驚いたような

不思議な表情をしていた。



イヤホンをつないで

新しい音楽を聴かせると

嬉しそうに


彼女は

笑った。